社会学研究会

近代日本の「家族」と買売春の位相――廃娼・存娼論における「公娼/私娼」カテゴリーへの着目から

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記事タイトル 近代日本の「家族」と買売春の位相――廃娼・存娼論における「公娼/私娼」カテゴリーへの着目から
著者 本多真隆
掲載号 60巻2号(184号)(2015-10)
ページ 21〜38
要約 近代日本の家族とセクシュアリティに関する歴史社会学研究において、「近代家族」規範の浸透と連動した「妻」と「娼婦」の分断は重要なテーマのひとつである。この分断は、近年の先行研究においては、幕藩体制では必ずしも蔑視の対象ではなかった芸娼妓が、明治期以後、「妻(家庭婦人)」に対する「娼婦」の側に位置づけられる過程として描かれてきた。 しかし近代日本の言説を検討すると、「娼婦」を「公娼」と「私娼」に類別して、前者を家族規範と共存させる論調など、先行研究とは異なる局面も散見される。また、戦前期においては、婚姻外の性関係を一定程度許容する「家」規範も優勢であった。本稿は廃娼論と存娼論における、「公娼」と「私娼」の分断への着目から、近代日本における家族規範と買売春の関連の一端を明らかにする。 検討の結果、廃娼論は「近代家族」的な家族観と「性」の問題は個人の倫理観に委ねるという発想から公娼制度を批判し、対して存娼論は公娼制度との共存で保たれていた「家族」を擁護するという発想から、「私娼」を批判していた様相が示された。結論部では、近代日本における廃娼論と存娼論の対立、および「公娼」と「私娼」の位置づけの違いは、存続の危機をむかえていた公娼制度と、新たに勃興した性風俗、そして「家」と「近代家族」のあいだで変動の過程にあった「家族」をどのように整合的に位置づけるかをめぐる見解の相違であったと位置づけた。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.60.2_21