社会学研究会

政治的信頼と福祉国家への支持――調整変数としての失業率

記事情報

記事タイトル 政治的信頼と福祉国家への支持――調整変数としての失業率
著者 池田裕
掲載号 61巻1号(186号)(2016-06)
ページ 3〜21
要約 比較態度研究において、政治的信頼と福祉国家への支持の関係は未解決の問題とされている。政治家や公務員といった政治的アクターは、社会政策の形成と実施に関与する。それゆえに、先行研究は政治的信頼が福祉国家への支持の重要な規定要因であると仮定した。しかし、こうした主張は部分的にしか支持されていない。それに対して、本稿は二つの点で先行研究を発展させる。第一に、本稿は政治家への信頼と公務員への信頼を区別する。第二に、本稿は調整変数としての失業率の役割を検討する。 国際社会調査プログラム(ISSP)のデータを用いたマルチレベル分析によって、本稿は以下の知見を得た。 第一に、政治家への信頼が高い人は、政治家への信頼が低い人よりも福祉国家を支持する傾向が弱い。この関連性は、失業率が低い国よりも失業率が高い国で顕著である。第二に、公務員への信頼が高い人は、公務員への信頼が低い人よりも福祉国家を支持する傾向が強い。この関連性は、失業率が高い国よりも失業率が低い国で顕著である。 福祉国家への支持に対して、政治家への信頼と公務員への信頼は異なる効果を持つ。加えて、二つの政治的信頼の効果には、無視できない国家間の差異が存在する。こうした国家間の差異は、各国の失業率の水準によって説明される。このように、政治的信頼と福祉国家への支持の関係は先行研究が想定したよりも複雑である。主流の理論的期待に反して、本稿の結果は、政治的信頼の特定の側面が福祉国家の正統性を掘り崩す可能性があることを示唆している。少なくとも、政治的信頼の醸成のみによって福祉国家を防衛することができると考えるのは過度に楽観的である。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.61.1_3