社会学研究会

フランスのパリテ法をめぐる「性差」の解釈――普遍/差異のジレンマを超える「あいまいな本質主義」の可能性

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記事タイトル フランスのパリテ法をめぐる「性差」の解釈――普遍/差異のジレンマを超える「あいまいな本質主義」の可能性
著者 村上彩佳
掲載号 61巻2号(187号)(2016-10)
ページ 59〜77
要約 仏国は近年、男女平等な政治参画促進のための大改革を実施した。まず一九九九年に憲法を改正し、両性の政治参画平等促進を憲法に明示した。この改憲を受け翌二〇〇〇年に男女同数候補者制の選挙実施を規定するパリテ法を制定した。 パリテ法の制定は仏国内で大論争を呼んだ。そこで本稿は、論争の主たる舞台だった一般紙誌のパリテ法議論を整理した上で、①フェミニズム理論の洗練と発展をめざすフェミニスト誌、②仏女性に身近な女性誌、におけるパリテ法議論との相違点を検討する。 一般紙誌でパリテ法論争を牽引したのは、両性の類似性を重視するパリテ法反対派の普遍主義フェミニズムと、相違を強調するパリテ法支持派の差異主義フェミニズム、特に性差を本質とみなす差異本質主義フェミニズムだった。しかし①フェミニスト誌ではパリテ法賛成派も反対派も、差異本質主義に警戒を示す慎重な議論を展開した。また②女性誌では、女性の本質的「特性」と、女性のケアの経験といった文化的性差をない交ぜにした「あいまいな本質主義」がパリテ法を肯定する際に用いられた。 女性誌の「あいまいな本質主義」はフェミニズム理論としては欠陥があったが、「性差」をめぐる普遍/差異のジレンマを乗りこえる可能性を秘める。普遍主義は男女の類似性を重要視するために女性のケア経験や母親業の評価に慎重であるし、差異本質主義はそれらを本質・自然とみなしてしまう。しかし「あいまいな本質主義」は、性差の本質化・自然化を避けながら、女性のケア経験を価値づけることができる。「あいまいな本質主義」は、男性中心的な政治を、女性の日々の経験から作り変えるための道具となりうる。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.61.2_59