要約 |
本稿の目的は、一時的居場所がどのように構成され、どのような現代的意義をもつのかを明らかにすることである。 なぜなら従来の居場所をめぐる議論では、居場所の永続性や継続性を暗黙の前提としてきた一方で、一時的・流動的な居場所の意義が十分に検証されてこなかったからである。本稿の問題意識は、居場所が流動化している現在的な状況を踏まえると、永続性・継続性を前提としない一時的居場所も含めて、居場所概念が再検討される必要があるのではないかという点にある。こうした問題を明らかにするために、本稿では子ども食堂を事例として取り上げ、参与観察をとおして得られたデータを分析した。子ども食堂のなかでは、親―子、先生―生徒などの間で行われる典型的なカテゴリー遂行が確認できる。重要であるのは、子ども食堂は決して永続的居場所ではなく一時的居場所として構成されているということである。なぜなら、カテゴリー遂行によって構築される関係性はあくまでも擬制的関係性であるからである。 しかしながら、こうした擬制的関係性の構築と変容が、まさに一時的居場所としての子ども食堂を構成しているのである。永続的居場所が持続的な人間関係や個人の包摂を保証する機能を有しているのに対して、本稿が明らかにした一時的居場所の意義は、擬制的関係性をもとに他者とゆるやかな自由をもってかかわり合うことを可能にすることであるといえる。 |