社会学研究会

理性、身体、社会――パスカルからブルデューへ

記事情報

記事タイトル 理性、身体、社会――パスカルからブルデューへ
著者 今野晃
掲載号 60巻3号(185号)(2016-02)
ページ 3〜20
要約 本稿では、ブルデューの思想的源泉の一つであるパスカルを掘り下げ、それを通してブルデューの理論を捉え返す。 これにより、彼の捉えたパスカル的思考の社会学的意義を明らかにし、さらに彼の理論の可能性、その実践的意義を見出したい。 パスカルは、科学者であると同時に、人間存在の探求を行った。デカルトとは反対に、パスカルは人間を脆弱な存在と捉えた。彼にとって人間は、慣習という脆弱なものに依拠する存在だった。彼はまた、理性の限界にも自覚的だった。 慣習も理性も人間には不可欠だが、共に確固たるものではなかった。限界を自覚しつつ理性と慣習の両者を重視するパスカルの思考は、ブルデューも継承している。ブルデューも厳密に科学を追究する一方で、その限界を意識し、ハビトゥス概念により人間の慣習を強調した。 パスカルは慣習が恣意的なものであり、そこには確固たる根拠がないことを知っていた。そして慣習に基づく社会諸制度も、確固たる根拠を持ってはいない。この点はブルデューも同じ立場だった。我々は、この社会制度の「根拠のなさ」を考察することで、現行の慣習と社会制度を別のものに置き換える可能性を探ることができる。 その為に本稿では、パスカルの二つの無限という観点を掘り下げる。宇宙と同様に、微小な存在にも理性が到達できない無限があるとパスカルは考えていたが、本稿では、この微小なものの無限という考えを、ブルデューのハビトゥスに適用し、実践の無限(多様性)を活かした社会変革が構想できることを検討した。 以上のように、パスカルを通して、ブルデュー理論を解釈することで、彼の理論の新たな面、とりわけその実践的可能性を見ることができる。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.60.3_3