社会学研究会

農村部公的医療保険の受給者評価に対する世帯・地域特性の影響――中国遼寧省K市調査データのマルチレベル分析から

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記事タイトル 農村部公的医療保険の受給者評価に対する世帯・地域特性の影響――中国遼寧省K市調査データのマルチレベル分析から
著者 徐堯
掲載号 60巻3号(185号)(2016-02)
ページ 77〜96
要約 二〇〇〇年代以降の中国社会においては、都市―農村の二元構造を超えて、全国民を対象とした各種の社会保障プログラムが整備されてきた。社会支出の急増をともなうそうした制度、とくに農村部における福祉制度の整備により、中 国の福祉改革は「福祉国家への離陸」(武川 二〇〇七)を迎えている。この中国農村部福祉を、国際的に蓄積されてい る福祉国家・レジーム研究のなかに新たに位置づけることで、東アジアの福祉レジームに関する議論をさらに深化させることが本稿の狙いである。 こうした問題意識のもとで、本稿は、福祉レジーム論の理論枠組みを援用しつつ、農村部で運用されている公的医療保険を対象とし、ミクロな観点から農村部福祉給付に対する受給者の評価を規定する要因について考察した。考察にあたって、受給者評価に関する地域差異仮説と再家族化仮説を提起し、遼寧省K市農村部の公的医療保険受給者を対象とした面接調査のデータを用いた多変量解析により、それらの仮説を検証した。その結果、受給者評価に対する地域レベルの変数(人口構造と産業構造)の効果が有意であることから、地域差異仮説が支持された。さらに、世帯レベルの変数(世帯構成と世帯所得の商品化度)の効果が有意であることから、再家族化仮説も支持された。 以上の分析から、中国農村部で形成されつつある福祉レジームの事例を提示することを通して、国民国家ごとに差異化された福祉レジームとは別に、一つの国民国家内に農村部の福祉レジームが地域間の差異を含みながら生成されていることと、福祉制度の導入が世帯間差異の影響力および家族の福祉供給機能を再生産していることが明らかになった。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.60.3_77