社会学研究会

NGOが産出する「ポジティブ」な「第三世界」女性表象――アシッドバイオレンス根絶運動におけるアクティヴィストの視覚表象を事例に

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記事タイトル NGOが産出する「ポジティブ」な「第三世界」女性表象――アシッドバイオレンス根絶運動におけるアクティヴィストの視覚表象を事例に
著者 近藤凜太朗
掲載号 63巻2号(193号)(2018-10)
ページ 3〜21
要約 開発NGOの表象実践(practice of representation)に関する英語圏の研究では、一九八〇年代から登場してきた 「第三世界」女性の「ポジティブ」な視覚映像に対して批判的分析が加えられてきた。そこでは、ポジティブな表象が、グローバルな権力構造を問題化することなく、「第三世界」女性の個人的努力と経済的自立を無批判に称揚することによって、市場に貧困問題の「解決」を委ねる新自由主義的論理と親和性をもつことが批判されてきた。だが、これらの先行研究は、主に国際開発NGOを事例としており、ローカルな文脈で政治的主体として女性運動に参入する女性がどう描かれるのかということを十分に論じてはこなかった。そこで本論では、アシッドバイオレンス(acid violence)のサバイバー支援を行うバングラデシュのNGOが制作した写真集を素材に、自らのサバイバーとしての経験に依拠して運動に参入した一人の女性を取り上げた組写真の分析から、「第三世界」女性アクティヴィストのポジティブな視覚表象がもつ政治的意味作用の一端を明らかにした。 分析の結果、一方では、写真集の文字テクストと写真のシークエンスから見出される優先的意味(preferred meaning)において、女性に対する暴力を告発する変革的メッセージを読みとることができた。だが他方では、彼女 のアクティヴィストへの成長を可能にした「第三世界」のローカルな運動の貢献が消去され、代わりに「第一世界」の医療技術やドナー資金の効能が過大評価されていた。その帰結として、優先的意味において見出された変革的メッセージが、アシッドバイオレンスをめぐる文化的レイシズムの言説など、人種やジェンダーに関わる支配的言説と節合されてしまう可能性が指摘された。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.63.2_3