社会学研究会

ナショナリズム・ライシテ・道徳的個人主義――フランス第三共和政下の政治的対立とデュルケム

記事情報

記事タイトル ナショナリズム・ライシテ・道徳的個人主義――フランス第三共和政下の政治的対立とデュルケム
著者 野々村元希
掲載号 63巻2号(193号)(2018-10)
ページ 23〜41
要約 本稿は、第三共和政下のフランス社会における政治的対立を踏まえた上で、道徳的個人主義という思想を提起したデュルケムの実践的なねらいを考察するものである。 デュルケムはドレフュス事件に象徴される社会の危機に際して、ナショナリズムをめぐる左翼と右翼の対立、宗教をめぐる反教権派と教権派の対立に直面した。道徳的個人主義を主張するデュルケムのねらいは、これらの対立を乗り越え、社会の全般的な統合を目指すことにある。これについて、『社会分業論』の「人格崇拝」論を起点とするデュルケムの個人主義研究の歩みをたどりつつ、道徳的個人主義の要点を整理した上でデュルケムの政治的立場を検討すると、次のことが指摘できる。 デュルケムは、人権の擁護を顧みない右翼ナショナリズム、またこれをフランスという一国家のアイデンティティにのみかかわる理想とみなす左翼ナショナリズムを批判する。道徳的個人主義は人権思想を国家統合の道徳的基礎としつつ、それをその国家の内部で実現すべき人類の理想とみなし、いかなる人間にも人権を保障しようとするものである。 また、デュルケムは共和派としてライックな道徳を重視しながらも、当時の反教権主義的な教育政策からは距離をとり、カトリック教権主義勢力とも協調しようとする。道徳的個人主義は、ライックでありつつも宗教性を帯び、かつカトリックの道徳とも連続的なものとして、社会統合の基盤となる思想である。このように、道徳的個人主義の宗教性によって政治的諸対立を克服しようとするデュルケムの見解は、既存の宗教の違いやライシテ原則をめぐる表面的な対立を超えた水準で現代社会の問題を考察する重要な端緒となっている。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.63.2_23