要約 |
本格的な人口減少時代に入り空き家の増加が全国的な問題となっている。その一つの解決策として注目されているものに住民や市民が施工に参画する「参加型リノベーション」による空き家再生がある。こうした活動を主導しているのは施工部門を持つ業者であるが、建物の設計監理が専門である建築家も参入しつつある。こうした動向は、労働社会学や専門職論の視角から建築家の職能を捉え返したとき、一つの画期をなす状況であるといえる。なぜなら建築家は設計から施工に至る一連の建築的営為の中で設計と施工を分離することで成立した職能である故、建築家が施工業を兼業しないという規範(建築家の規範)の下で職業実践を行っている。だとすれば、それを行う建築家はいかなる職業規範を内面化しているのだろうか。こうした問いを明らかにするために本稿は「参加型リノベーション」に携わる建築家A氏を対象にしたインタビュー調査と参与観察を実施した。 調査の結果、A氏は「まち医者的建築家」という職業規範を内面化することで業界的禁忌を乗り越えた実践が可能になっていた。しかし、マネタイズに関しては既存の専門職規範(建築家規範)によって可能になっていた報酬構造を持ち込むことができず、従来の規範が禁じる設計と施工の利益相反を犯す事によって、かろうじてコンサマトリーなマネタイズが成立するにとどまっていることが明らかになった。 |