社会学研究会

ハイブリッド文化としてのフランスの新しいイスラーム――信仰実践を回避する移民第二世代のムスリムの語りから

記事情報

記事タイトル ハイブリッド文化としてのフランスの新しいイスラーム――信仰実践を回避する移民第二世代のムスリムの語りから
著者 山下泰幸
掲載号 63巻1号(192号)(2018-06)
ページ 39〜57
要約 本稿の課題は、イスラーム嫌悪が蔓延し、なおかつ公共空間における宗教性の排除が社会規範とされる現代フランスにおいて生み出されつつある、ハイブリッド文化としてのフランス独自の新しいイスラームを分析することである。本稿では信仰実践を回避する北アフリカ系移民二世のムスリムたちの語りに着目することで、その思考様式を理解するために「順応型イスラーム」というひとつの理念型を提起する第一節では、フランスのムスリムたちの社会的状況を概観し、関連する先行研究を批判的に検討することで本稿の目的を設定する。多くの先行研究では社会問題化される可視的なムスリムばかりが焦点化され、信仰実践を行わずコンフリクトを起こさない者は注目されてこなかった。第二節ではまずパリでの調査の概要を述べた後、これ以降の節で事例として分析する、有名企業に勤務するアルジェリア系移民二世のマリク(仮名)の少年期について紹介する。第三節では、両親に代表される移民第一世代とその保守的な宗教規範に対してマリクが抱えるフラストレーションを扱う。第四節では、彼が学業および職業上の成功を可能とするために、どのように信仰実践の忌避を正当化しているか検討する。 聖典クルアーンの内容をフランスの文脈に当てはめてその今日的意義を問い直すという実践に注目する。第五節では前節までの内容をもとに「順応型イスラーム」という新しいイスラームの理念型を提起する。本稿のまとめと課題を述べる第六節では、ハイブリッド文化としてのこの新しいイスラームが、文化的差異を過度に強調する言説に対する批判として機能しうるかを再検討する。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.63.1_39