社会学研究会

多文化主義思想における他者性の否認――批判的人類学の挑戦に学ぶ

記事情報

記事タイトル 多文化主義思想における他者性の否認――批判的人類学の挑戦に学ぶ
著者 鈴木赳生
掲載号 63巻3号(194号)(2019-02)
ページ 41〜58
要約 本稿は、他者の包摂をうたう多文化主義思想において他者性が認められない逆説的状況を問題化し、批判的人類学の挑戦がこうした多文化主義思想の限界を批判し乗り越えていくために生かせることを主張する。この仕事は、「異質な他者といかに関係を築くか」という問いに応じるために異なる知の領域同士の生産的な協働をはかる、というより大きな研究プロジェクトの一部をなす。 この試みの一環として、本稿は人類学的批判理論家ガッサン・ハージの研究を再構成する。多文化主義に対する鋭い批判で知られるハージは、他者の排斥―包含の連続性を理論的に解明するとともに、この一組の統治機構にとらわれない社会関係を探究してきた。この探究に生かされるのが、自己とは根本的に異なる他者性を知ろうとする人類学の営為である。ハージはこの批判的人類学の営為に、異質な他者との別様な関係構築法を探る方途を見出す。本稿は「飼いならし」という鍵概念を軸に、乖離するかにみえる彼の多文化主義批判と批判的人類学を接続する。 最後にハージの議論に対する疑問を検討するなかで、彼の、そして本稿の議論の位置づけが明示される。自他の区分を前提とする立論は、そもそも両者の明瞭な区分などできず、その前提自体が人々のあいだに不要な分断を持ち込んでいるのではないか、と問われうる。本稿はこうした疑問を受け止めつつも、自他が暴力的に分け隔てられる政治的状況が議論の背景にあることを再確認する。そのうえでハージの批判的人類学、とくにその多現実論が提起する多元性のとらえなおしが、多文化主義思想の限界を超えていこうとする批判理論の再出発点を示していると主張する。
要約(英文)
外部URL https://doi.org/10.14959/soshioroji.63.3_41